では、生徒に粘り強い行動をさせるにはどうしたらいいのでしょうか?ファリントンが調査から引きだした結論によれば、「学業のための粘り強さ」の背後にあるカギは、「学業のたしめのマインドセットという心のありよう」、つまり子どもたちそれぞれの姿勢や自己認識なのです。ファリントンは生徒のマインドセットに関する大量の研究から、カギとなる四つの信念を抽出しました。生徒たちの教室でのがんばりに最も大きく貢献する信念です。

①私はこの学校に所属している。②私の能力は努力によって伸びる。③私はこれを成功させることかできる。④この勉強は私にとって価値がある。

生徒たちが授業中にこの信念を持っていられれば、そこで出くわす課題や失敗を乗りこえられます。この信念がなければ、最初の困難がちらりと見えたところであきらめてしまうかもしれません。

当然ながら問題は、逆境に育った生徒たちがファリントンの挙げた四つの項目をどれも信じられずにいることだとタフ氏は言うのです。一つには、幼少期にはじまった神経生物学的な逆境の影響があります。有害なストレスにさらされたことで過敏な闘争・逃走反応が生じているのです。暴力的な地域や家庭にいるときには非常に役立ちますが、7年生の歴史の授業中にはあまり役立ちません。闘争・逃走の本能は、「私はここに所属している」という信念を強化することはなく、その正反対の警告「ここはおまえの居場所ではない。敵の領域だ。この学校にいる全員がおまえを捕まえようとしている」というような警告を車のクラクション並みの大音量で伝えます。これに加え、逆境のなかで育った子どもたちはたいていミドル・スクールやハイ・スクールに人るころには勉強が大幅に遅れており、十中八九、学校側と対立してきた前歴もあるそうです。こうした生徒は多くの学校で、補習クラスに入れられるか、くり返し停学処分を受けるか、あるいはその両方にはまりこみます。これでは「私はここに所属している」とか「私はこれを成功させることができる」などと思うのは無理なのです。

見てわかるとおり、ファリントンのいう学業のための四つのマインドセットは、デシとライアンの三つの内発的動機づけである、「自律性」「有能感」「関係性」と呼応しています。実際には、ファリントンのリストと、デシとライアンのリストをさらに煮詰めて、生徒の成功にきわめて重要な二大メッセージを取りだすことができるのではないかとタフ氏は思っています。一つは「帰属意識」に関するもの。自分の学校、あるいはクラスの人々が自分の存在を望んでくれる、自分はこの学習環境のなかで歓迎され価値を認められている、という実感です。これは何よりも日々学校で経験する人間関係に左右されます。

二大メセージの一つめが人に関するものなら、もう一つは「勉強」に関するものです。生徒たちの心理は、学校で毎日やる作業にも大きく影響されるのです。むずかしいだろうか?やる意味はあるだろうか?少しがんばれば理解できる範囲の問題だろうか?懸命に取り組めば乗りこえられそうな課題が与えられるとき、生徒にはデシとライアンのいう「有能感」と「自律性」を経験するチャンスが生まれるのです。「簡単ではなかったが、私はこれをやり遂げた」。言葉で肯定されるだけでは得られない実感です。

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