Tesla Slips on Model S and Model X Recall Demand From NHTSA

NHTSA(アメリカ合衆国運輸省)が Tesla に対して、特定の時期に売られた Model S と Model X をリコールすることを推奨するメールが送られたという記事です。

リコールそのものは、自動車業界では珍しい話ではありませんが、この記事にその e-mail へのリンク  が貼り付けられていたので読んでみると、なかなか面白い内容だったので紹介します。

冒頭の部分に、

Certain of these Model S and X vehicles were equipped with an NVIDIA Tegra 3 processor with an integrated 8GB eMMC NAND flash memory device (the “subject vehicles”). Part of this 8GB storage capacity is used each time the vehicle is started. The eMMC NAND cell hardware fails when the storage capacity is reached, resulting in failure of the MCU. The MCU is the vehicle’s display screen, which controls certain aspects of performance subject to Federal motor vehicle safety standards (“FMVSS”)1 and other safety-relevant functions.

と書かれています。リコール対象のモデルには NVIDIA Tegra 3 が搭載されていますが、そこに乗っている8GBのフラッシュメモリが自動車をスタートするたびに消費され、最終的にはメモリ不足に至って、MCU(Model S/X に搭載されている大きなディスプレイ・ユニット)が機能しなくなってしまう、との指摘です。

「自動車をスタートするたびに消費される」という部分が納得出来ないので、さらに読み進むと、

According to Tesla, for subject vehicles equipped with the NVIDIA Tegra 3 processor with an integrated 8GB eMMC NAND flash memory device, the eMMC NAND cell hardware will fail when reaching lifetime wear, for which the eMMC controller has no available memory blocks necessary to recover.

と書いてあり、これがNAND型フラッシュメモリ特有の「メモリの需要」に関わる話だということが分かります。フラッシュメモリは、絶縁体である酸化膜が貫通する電子によって劣化するため、書き込み回数に上限があるのです(数百回から数万回)。

そんな事情があるため、NANDメモリを持つシステムは、一箇所に書き込みが集中しないようにしたり、劣化した部分を使わなくなるような仕組みを持っていますが、長期間(数年間)使用すると使えるメモリが減少し、結果的にストレージとして使えなくなってしまうのです。

今回は、それが問題視されているのです。

フラッシュメモリを搭載したスマートフォンやノートパソコンにも同じ問題がありますが、通常はフラッシュメモリよりも先にデバイス本体の寿命が来てしまうので、大きな問題にはならないのです。

自動車の場合、スマートフォンやノートパソコンと違って10年以上使われるのが当たり前です。Model S の場合、Tegra 3 は2012年のモデルから搭載しているため、そろそろ不具合が出始めているのです。

Tesla 自身もこの問題を認識しており、使用するメモリの量を減らすなどの工夫で対処しているそうですが、完璧に対処することは原理的に不可能なので、ある時点で、システムを交換する必要があります。

これを「無償リコール」の対象とすべきかどうかは、難しい話です。

NHTSA側は、安全に関わる機能(具体的には、後退時のカメラ映像の投影と窓ガラスの曇り除去)なのでリコール対象とすべきとしていますが、Tesla としては、コンポーネントの寿命なのだから、通常の修理の対象であるべきとしているのです。

対象となるのは15万8千台だそうですが、全車を一斉リコールの対象にする必要はないと思います。Tesla として出来ることは、フラッシュメモリの劣化度をコンソール・パネルに明示するようにし、問題が起こる前に警告を出す、あまりにも早く劣化してしまった場合(例えば6年以内)は無償で交換に応じる、程度のことだと思います。

ちなみに、この問題は、自社製チップを搭載した新しいモデルにも存在する話で、今後フラッシュメモリを搭載した自動車が世の中に増えて来ることは明らかなので、業界全体として、どう扱うべきかをあらかじめ決めておくべき重要な問題だと思います。

引用:週刊 Life is Beautiful 2021年1月19日号