発表者:
古林 太郎(フランス国立科学研究センター 博士研究員)

植田 健介(東京大学大学院総合文化研究科附属先進科学研究機構/同研究科 広域科学専攻博士課程 1 年生)

番所 洋輔(大阪大学生命機能研究科 博士課程大学院生(研究当時))

元岡 大祐(大阪大学微生物病研究所 特任助教)

中村 昇太(大阪大学微生物病研究所 特任准教授)

水内 良(東京大学大学院総合文化研究科附属先進科学研究機構 特任助教/科学技術振興機構 さきがけ研究者)

市橋 伯一(東京大学大学院総合文化研究科附属先進科学研究機構/同研究科 広域科学専攻/普遍性生物学機構 教授)

 

発表のポイント:
原始生命体を模した分子システムを開発し長期進化実験を行ったところ、ウイルスのような寄生体が自然発生した。
開発した分子システムは、寄生体と共進化すると進化が止まらなくなり、さらに複数の種へと分化した。
寄生体は、ただの物質の集まりであった原始生命体に進化を促し、生命誕生を可能にした鍵であったと考えられる。
発表概要:
フランス国立科学研究センターの古林太郎博士研究員、東京大学大学院総合文化研究科附属先進科学研究機構/同研究科 広域科学専攻/普遍性生物学機構の市橋伯一教授らは、ただの物質の集まりである RNA の自己複製システム(注1)を試験管内で多様な系統へと自発進化させることに成功しました。

 

生命が生まれる前の時代には、RNA や短いタンパク質などの分子からなる、分子の自己複製システム(例えば RNA ワールドにおける自己複製 RNA など)が存在し、それらが進化することで現在のような多様で複雑な生物界が作り上げられたと想像されています。しかし、これまでの分子の自己複製システムでは進化(注2)がすぐに止まり、生命に近づいていく様子は観察されませんでした。本研究では、独自に開発した RNA の自己複製システムを原始生命体のモデルとして用いて、実験室で約300世代に及ぶ長期の進化実験を行いました。その結果、これまで見られたことのない進化現象を観察することに成功しました。まず、元の RNA(宿主 RNA と呼ぶ)に依存して増える寄生型の RNA(寄生体 RNA と呼ぶ)が RNA の組み換え(注3)により自然発生しました。そしてこの寄生体 RNA と元の宿主 RNA は、互いに対する耐性を次々に獲得していきました。この進化的軍拡競争(注4)と呼ばれる現象の結果、宿主 RNA と寄生体 RNA の双方が止まることなく進化を続け多様な種類へと分化することが発見されました。

 

これまでウイルスなどの寄生体と宿主生物との共進化は、生物進化における重要な駆動力のひとつだと考えられてきましたが、本研究成果は、その起源が生命誕生前までさかのぼる可能性を示しています。寄生体との共進化が、物質から生命への進化を可能にしたカギだったのではないかと発表者らは考えています。

 

もっと知るには・・・
https://research-er.jp/articles/view/90663