最近、点群(point cloud)という言葉を目にする機会が増えています。
点群とは、3次元空間上の点の集合のことで、これまでのコンピュータ・グラフィックスの世界では、主に「生成するもの」でした。
コンピュータの画面に人や建物を描く場合、人や建物のモデルから点群を生成し、その点群からポリゴン(ほとんどの場合は3角形)を生成し、それぞれのポリゴンが、視点からどう見えるのか(もしくは見えないのか)を計算した上で、各ピクセルの色を決めて描画しているのです。
しかし、カメラを含めた各種センサーの能力と、コンピュータの計算能力が向上するにつれて、実際の世界の様子を点群として取り込み、それを処理することが現実的になって来ました。
私たちの一番身近なところでこの技術を応用したのは、Xbox の Kinect です(2010年)。Kinect は対象物に対して赤外線を照射し、その反射光を捉えることにより、各点の奥行き情報を得て点群を作り、そこからプレイヤーのジェスチャーを認識するような仕組みになっていました。
しかし、最近になって点群が特に注目されるようになったのは、自動運転のためです。自動運転を実現するためには、周りにある道路、建物、人、自動車などの位置を認識する必要がありますが、そのためにはカメラや各種センサーを組み合わせて、それらをまずは点群として捉えた上で、エッジ抽出、オブジェクト認識と、上の3D描画とは逆のプロセスを行う必要があります。
当然ですが、入力データにはたくさんのノイズが乗っている上に、自動車の場合は、カメラ自身が動いているため、センサーから読み取ることが出来る点群の座標は相対座標でしかないため、さらに処理が複雑になります。
センサーとしては、LiDAR(Light Detection and Ranging)とカメラを組み合わせたものが多く、LiDAR で対象物までの距離を測り、カメラで色を取得し、色付きの点群情報として入手します。各点には、センサーからの相対座標(x, y, z)および 色(r, g, b)の6次元の情報が紐づくことになります。
技術的にはとても面白い分野で、まだまだ伸び代のある研究課題ですが、これまではハードウェアの制約上、自動運転に関わる技術者だけが点群データを扱った研究開発をして来たと言えます。XboxのKinnectを無理やりパソコンに繋いで色々な実験をする人たちもいましたが、それはごく少数派です。
しかし、今回、Apple が最新の iPad Pro に LiDAR を搭載したことで、一気に環境が変わりました。$1,000 以下で、点群情報を手軽に得られるようになっただけでなく、開発環境も充実しているからです。
私はこれにより、一気に点群処理の技術が数多くの技術者の間に広まり、様々なイノベーションが生まれるだろうと見ています。点群情報を活用した、これまでにない新しいアプリケーションが作られるのです。
ざっと思いつくだけでも、
3Dコピー:3Dスキャンしたものを、3Dプリンターで再生
テイラーメードの服や靴:体を3Dスキャンして、それにフィットする服や靴を注文
3D不動産情報:3Dスキャンした不動産の中を VR で確認
3Dショッピング:3Dスキャンした商品をブラウザー上で確かめてから購入
バーチャルツアー:名所旧跡をVRグラスを装着して自在に探索
3D計測:土地の起伏や建物の形状を非接触で計測
3D会議:会議している相手の姿をホログラムで再現
などがありますが、良い頭の体操になると思うので、是非とも色々と考えてみてください。
引用:週刊 Life is Beautiful 2020年7月14日号
歴史的建造物のレーザ計測点群データに基づく平面・断面図の自動生成と融合可視化
精確な建築情報は,歴史的建造物の保存や復元において,
とても重要である.しかし,精密な設計図が存在する現代
の建物と違い,歴史的な建造物は保存されてきた建築情報
が非常に少ない.これに対し,三次元レーザ計測技術を利
用し,歴史的建造物の内部・外部構造を把握する手法があ
る.この手法では,レーザ計測で取得した 3 次元点群デー
タを分析することによって,必要な建築情報を取得する
[1][2][3].ただし,この手法では,良い結果を取得するに
は,人力的・時間的にコストが高い.近年,計測点群デー
タに基づく研究は数多く行われているとは言え,点群から
精確な幾何学情報を自動抽出するのは未だに困難であり,
尽力に多くを頼っているのが現状である[4][5][6][7].
一方,大規模点群データの高速レンダリングの実現によ
り,三次元計測点群データに基づく多様な可視化技術の開
発が要求されてきた.これを背景に,我々は大規模点群デ
ータをベースに,我々は,粒子ベースレンダリングという
半透明特性を持つ可視化技術を開発してきた[8].また,点
群データだけでなく,ボリュームデータ,サーフェスデー
タなどと融合した多彩な可視化も可能である.
本研究は,歴史的な建造物に関連する事業(保存,復元,
展示等)を支援することを目的として,三次元レーザ計測
点群データに基づき,建築情報を抽出し,平面・断面図の
自動生成を目指す.同時に,生成された建築情報を計測点
群データと融合することで,歴史的建造物の構造や特徴を
より分かりやすく可視化する.ただし,本論文では,現段
階の進捗につき,図化処理の前期段階(歴史的建造物にあ
る各パーツの識別)を中心的に述べる.なお,事例として,
本研究は滋賀県栗東歴史民俗博物館・旧中島家を対象にす
ることに通し,手法と結果の検証を行う.
もっと知るには・・・
https://ipsj.ixsq.nii.ac.jp/ej/?action=repository_uri&item_id=112531&file_id=1&file_no=1
どんなところで使われてるの??
大規模点群データの平滑化手法に関する研究
老朽化した生産設備やプラント施設の改修による長寿命化,
迅速な設備更新は多くの企業において重要な課題となっている.
そうした作業を短期間・低コストで行うためには,点群計測に基
づく現物の 3D モデリングが有効であると考えられる.生産設備
の 3D モデルを用いて作業工程,干渉,改修部品の検討を行った
後に実作業を行うため,作業を短期間で確実に行うことができ,
設備の停止期間も短縮することができる.
引用:http://www.ddm.mi.uec.ac.jp/papers/smt10-1.pdf
大規模点群からの生産設備の形状再構成(第 1 報)*
生産設備のメンテナンスや改修の工程においては3Dモデル
を使ったシミュレーションが有効である.しかしながら,改修
が必要となる古い年代に作られた設備では,CADデータが存
在しない場合も多く,存在する場合でも長年の度重なる改修工
事によって,設計段階の3Dモデルと現状が異なってしまうと
いう問題が発生する.そのため,シミュレーションには,現物
の設備の計測に基づいた形状モデルの作成が必要となる.
近年では,レーザスキャナの性能の向上に伴い,3次元計測
によって取得できるデータの大容量化・高精度化が進んでいる.
高性能の位相差方式のレーザスキャナを用いれば,大規模環境
において,高密度の点群を短時間で取得することが可能である
RANSAC を用いた屋内レーザ計測点群と BIM とのレジストレーション
建 築 プ ロ ジ ェ ク ト に お け る プ ロ ダ ク ト モ デ ル で あ る
BIM(Building Information Model)の利用機会が, 急速に普及し
ている. BIM の活用は設計・施工時のみならず,竣工後の建物の
維持管理等に対しても有効であるが, BIM を継続的に更新し変更
情報を反映していくことが課題である. その有効な解決方法の 1
つに, 現況のレーザ計測点群に基づき, BIM を更新していく方法
が考えられる.
引用:https://www.jstage.jst.go.jp/article/pscjspe/2013S/0/2013S_879/_pdf