研究成果のポイント

  1. サッカーにおける J リーグとブンデスリーガの攻撃様相の違いを調べるために、互いのゲーム分析を行いました。
  2. サッカーにおいてはディフェンダー(DF)とミッドフィルダー(MF)間のスペースを利用した攻撃がサイド攻撃などと比べて得点や得点機会に繋がりやすいことを実証しました。
  3. J リーグでは、ブンデスリーガと比べると DF-MF 間を利用した攻撃が少なく、DF-MF 間でボールを受けた選手が攻撃方向へボールを運んでおらず、ボールを奪われることが多いことが明らかになりました。

 

研究の背景

現代サッカーの守備戦術は、選手間の距離を縮めることでコンパクトな守備組織を形成することが主流となっています。そのため、ディフェンダー(DF)とミッドフィルダー(MF)との間のスペース(DF-MF 間)は非常に狭く、侵入した際には厳しいプレッシャーがかけられます。指導書等(たとえば、林、2011)では、攻撃時にこの DF-MF 間を利用することは得点や得点機会に繋がりやすいと記述されており、DF-MF 間を利用した攻撃は得点を奪う上で重要であると考えられています。それに対して、日本サッカーは、相手守備組織内での攻撃プレーに課題があるとされており、DF-MF 間を利用した攻撃が効果的に行えていない可能性があります。したがって、DF-MF 間に着目して J リーグと世界トップリーグの攻撃を比較し、J リーグの攻撃に見られる特徴を明確にすることには意義があると考えられます。

しかし、これまでに DF-MF 間を利用した攻撃の有効性や、DF-MF 間に着目した J リーグの攻撃様相について言及した学術的研究は見られませんでした。

研究内容と成果

本研究では、日本のトップリーグである J1 リーグ(JL)とドイツのトップリーグであるブンデスリーガ(BL)を対象に、記述的ゲームパフォーマンス分析を行いました。分析ではまず、各リーグにおいて攻撃の種類(DF-MF 間を利用した攻撃・サイド攻撃・その他の攻撃)と、得点および得点機会(シュート・ペナルティエリア(PA)内侵入)のクロス集計を行い、DF-MF 間を利用した攻撃の有効性(他の攻撃よりも得点や得点機会につながっているか)を検討しました。さらに、DF-MF 間に着目して、JL と BL の攻撃様相(プレーの方向や成功率など)の比較を行いました。

その結果、DF-MF 間を利用した攻撃はサイド攻撃・その他の攻撃よりもシュート・得点・PA 内侵入の割合が高く、得点や得点機会につながる有効な攻撃であることが明らかになりました。

また、JL は BL よりも DF-MF 間を利用した攻撃の生起率が低いことが示されました。この結果は、JL の DF-MF間を利用した攻撃の割合が、BL より低いことを表しています。さらに、DF-MF 間でボールを受けた選手が攻撃方向へボールを運ぶ割合および DF-MF 間でのプレー成功率は、JL では BL よりも低いことが確認されました。これらのことから、JL は BL と比べると、DF-MF 間に侵入したとしてもボールを攻撃方向へ運んでおらず、ボールを相手に奪われてしまうことが多いと考えられます。

今後の展開

本研究で得られた結果から、今までサッカーの指導現場や指導書等で議論されてきた DF-MF 間を利用した攻撃の有効性が実証されました。このことは、サッカーを指導する上で、DF-MF 間を利用した攻撃の重要性を説くための根拠の一つになると考えられます。さらに、今後は本研究で明らかになった JL と BL の攻撃様相の違いを考慮したトレーニングやコーチングが期待されます。

 

参照:http://www.tsukuba.ac.jp/attention-research/p201806251401.html