キリンホールディングスは温室効果ガス排出量の削減は「50年までにバリューチェーン全体で50%削減」を目指してきたが、ネットゼロへと上方修正。
RE100にも加盟し、2040年までに使用電力を再生可能エネルギー100%にすうr。

これらの情報開示は、キリンと投資家との対話にも一役買っている。
長期的な成長を見据えた経営を行うためには、それを是正してくれる株主の存在が不可欠だ。

溝内氏は「ESG投資を典型例として、機関投資家は企業経営の持続性や長期的なリスクマネジメント、非財務情報を評価する傾向にあります。とくに30~50年のロングタームを前提とする投資家は、当社のCSV経営に対するよき理解者。シナリオ分析を基に開示する情報は、まさにその指標となるものです。当社と機関投資家をつなぐ有益なコミュニケーションツールになるでしょう」と、シナリオ分析の重要性を説く。

機関投資家に選ばれ、またCSV経営を実践していくに際して、いかにレジリエンスを高め、事業拡大の柱をつくりだすか。
そこで強みになるのが、キリンの発酵・バイオ技術だ。

レジリエンスの分野では「植物バイオ技術」が、事業拡大の柱としては「免疫研究」がこの新しい分野をリードする存在になっている。

 

 

植物バイオ技術の代表例は、キリンが80年代にスタートした「植物大量増殖技術」だ。
同社は研究を重ね、植物の茎、芽、胚、イモを大量増殖させる4つの独自技術を開発。

実用場面で使える「袋型培養槽システム」の開発にも成功した。
中でもジャガイモの大量増殖技術は、具体的活用が検討されている。

「ジャガイモは国内自給率が高く、大切な食糧資源です。一方で、種子植物に比べて増殖率が低いうえ、ウイルスに弱く病気が広がりやすいという課題がありました。キリンの技術がこの問題を克服し、食料課題の解決に貢献できることに、大きな意義を感じます」
と語るのは、キリンホールディングスR&D本部キリン中央研究所の間宮幹士だ。

植物大量増殖技術のポテンシャルは高い。

キリンは現在、クロマツを大量培養して、東日本大震災で甚大な被害を受けた東北地方沿岸の防災林をさいせいするための苗木作りに取り組んでいる。
さらに産学連携の共同研究では、宇宙空間に近い環境でジャガイモやレタスの増殖に成功している。気候変動対応としても、温暖化に強い農産物が開発された際に、植物大量増殖技術を使って短期間で作付面積を増やすことにも貢献できるかもしれない。

今後は、植物から医薬品原料などを大量生産する「植物スマートセル」にも挑戦していくという。

「医薬品の生産に動植物細胞を利用する場合、動物細胞には人間にも感染するウイルスなどが存在する可能性があり、混入しないようにする必要がありますが、植物細胞には人間にも感染するウイルスは確認されていません。
ハラル対応にもなりますし、当社のCSV経営全体への貢献度も高い。植物にはまだしられていない力があります。それをいち早く活用することで、「医と食をつなぐ」事業を、競合優位なビジネスに育てられるはずです」と、間宮氏は期待を寄せる。

 

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