あなたは公平で誠実な人間ですか?
もし、ある原則が道徳的に正しいのでそれに従おうと思ったら、そうしますよね?
私たちは、実験に参加してくれる人に、このような質問をよく投げかける。
それに対して、ほぼすべての人が「イエス」と答える。
だが、彼らのその後の振る舞いは先の答えとたびたび一致しない。
こうした発言と行動の不一致を示す実験ー自分自身を知ることの難しさが分かる実験ーは関心を呼ぶ傾向がある。
なぜなら、そのような実験によって、自分の性格について抱いている幻想が砕かれるからだ。
この手の実験で特に私が気に入っているのは、人間がわれ知らずどれほど利己的になるのかが確かめられる実験だ。
みな、自分を信頼できると思っていても、誘惑にあっけなく負ける。
それでいて、自分は公平で誠実に振舞っているのだと、何とかして自分に言い聞かせる。
自分自身をいつも信頼できるわけではないことを納得してもらうためには、この実験から始めるのがいいだろう。
では、思考実験をしてみよう。
あなたを一人きりにしてから、コインを投げをして表と裏のどちらかが出たのかを書き留めて欲しいと頼んだら、正直にそうするか?
たぶんそうする。
それでは、表か裏かによって、あなたがその後にすることが大きく変わるならどうだろうか?
表がでたら、おもしろいゲームを短時間することができる。
一方、裏が出たら、退屈で面倒な作業に四十五分間縛られる。
そして、実験をさらに興味深くするために、隣の部屋にいる人はあなたのコイン投げの結果と逆の作業を引き受けることにする。
さて、あなたはどうするか?自分が正直に振舞うと信頼できるか?
自分がつまらない作業に取り組むあいだに、隣の人がおもしろいゲームをするのを良しとするか?
これは、自分の利益がかかると、自分の今後の振る舞いについての予測が狂うことを見るために、ピアカルロ・ヴァルデソロと私が考案した実験だ。
私たちはまず、一般の人が、コイン投げのルールを破るのは信頼に値しない行為とみなすことを確認する必要があった。
私たちがそう考えるからと言って、世間の人々が同意するとは限らない。
そこで、私たちは100人以上の人に、コイン投げをすっ飛ばして、いきなり楽しいほうの作業を自分に割り当てるのは間違っているかと尋ねた。
結果は驚くほどはっきりしていた。私たちが行う匿名のアンケート調査で全員の合意が得られたのは、あとにも先にもこのときだけだろう。
参加者は一人残らず、コイン投げをしないのも、結果に嘘をつくのも完全に間違っていると答えた。
ところが、それとまったく同じ状況に参加者を置くとー一人にして(隠しカメラを設置しておいて)、
自分と隣の部屋にいる人のどちらが面倒な作業に回されるかを決めるコイン投げをしてもらうと、
なんど九十%の人がコイン投げをしなかったのだ。
より正確に言えば、一部の人はコイン一度投げたが、二回投げ、三回投げ・・・・というように、
望む結果が出るまで何度も投げた。
それ以外の人は、コインを投げもせず、すぐに表が出たと報告した。
不正だから自分はしないと100%の人が言う行動を、90%もの人が実行するのは、どう考えても変だ。
人間には自分自身をだます傾向ー自分の不誠実な振る舞いを言葉巧みに正当化する傾向ーあるというのは確固とした知見で、
ほかの研究者によっても繰り返し再現されている。
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