https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjspe/74/12/74_12_1278/_pdf
本稿では、超精密切削加工技術の歴史的背景や基盤技術、そして具体的な応用例と今後の展望について概観している。超精密切削加工は、単結晶ダイヤモンド工具と高精度な工作機械を用い、数十nm単位の形状誤差や数nmオーダーの表面粗さを実現できるのが特徴である。1980年代にアメリカを中心に研究・開発が始まり、空気静圧軸受や高精度のレーザー測長器などの要素技術とともに急速に発展した。ダイヤモンド工具は単結晶を用いることで刃先の滑らかさや高硬度を実現し、アルミニウムや銅、無電解ニッケルリンメッキなどの非鉄金属や脆性材料の延性モード加工にも対応可能となった。
工作機械側では、空気静圧や油静圧をはじめとする高精度案内機構に加え、リニアモータや高分解能リニアスケールの導入により、ナノメートルレベルの制御を可能にしている。また、大量の加工データを高速で処理できるNC制御装置の進化も大きく貢献している。主な応用分野としては、非球面レンズ用金型や光学素子(フレネルレンズ、回折格子など)、微細機械構造部品、マイクロ流体チップ用金型など、多岐にわたる。今後は、鉄系材料にも適用可能な新たな工具材料の開発や、より高精度・高速かつ多軸化した工作機械の実現などが期待されており、さらなる発展が見込まれている。