アイデアはクレージーか
直感的に考えると、100人中100人に意見を求めて、みんなが「いいね!」と言ってくれるアイデアは挑戦したほうが、スタートアップの成功率は上がるように思える。
周囲の評価が高いほど不安が解消され、自信になるかもしれない。
しかし、逆説的だが、誰が聞いても良いと思えるアイデアは、スタートアップにとって選んではならないアイデアである。
自分のアイデアを他人に話したとき、大半の人が「それはいいよね」と賛同してくるような発想は避けるべきだ。
世界を変えてきたのは、着眼点が一見悪そうで、誰も手をつけたがらないアイデアを打ち出したスタートアップだ。
岡田光信CEOが立ち上げたスタートアップ、アストロスケール(シンガポール)のミッションは「宇宙ゴミの回収」だ。
他人に聞いたら、10人中9人は「どこに市場があるの?」、「どうやって儲けるの?」と思うだろう。
岡田氏は、そうしたネガティブなフィードバックが周囲から集まる状態を「マーケットが定義されていない状態」と捉えて、今のタイミングで事業を手掛けることがチャンスだと考えた。
アストロスケールが解決しようとしている課題は深刻だ。
地球の周りにはロケットや人工衛星の残骸(スペースデブリ)が増えすぎてロケットの打ち上げなどに支障をきたすレベルになっている。
このままいくと2100年頃には、地球は多くのゴミに囲まれて、人類は大気圏外に出ることが困難になるリスクがあるという。
今後の宇宙開発の大きな障害だ。
ヤマハ発動機グループのヤマハ・モーター・ベンチャーズ・アンド・ラボラトリー・シリコンバレーのCOOであるジョージ・ケラマン氏は、ある講演で「一見アンセクシーだが、実はセクシーなアイデアを見つけることが決め手となる」と語っていた。
あなたは、アンセクシー(一見魅力がない)アイデアを見つけることができるだろうか?
「99%くらいの人がアンセクシーだと感じるけれど、1%の人はセクシーだと感じるようなアイデア」を探し続けよう。
こうしたクレージーでアンセクシーなアイデアは、人に話すのが恥ずかしい。
人に話すのが恥ずかしい段階とは、その課題を言語化して説明するフレームワークがまだ入手できていないために、人に伝えるのが困難ということだ。
当然、その課題に目を付けている企業はまだ存在しないか、存在していてもごくわずかだろう。
一方、言語化して人に伝えられるような課題をターゲットにした場合、既に課題が認識されており、妥当な代替案がある場合が多い。
市場が顕在化していて、他社の事業に置き換わるかもしれないビジネスをスタートアップが狙うのは、投入できるリソースの勝負や価格勝負になるため賢明ではない。
オンライン決済の米PayPal(ペイパル)共同商業者で、投資家のピーター・レクチャー氏は、スタンフォード大学のレクチャーで「競争は負け犬がすることだ」と喝破している。
顧客を奪い合うと、価格競争に陥りやすくなる。顧客1人から得られる利益、LTV(Life Time Value)はみるみる下がり、そこから先はリソースやオペレーションの質で競うしかなくなる。
競争の中で顧客を獲得するには、広告費用などのCPA(Cost Per Acquisition、顧客獲得コスト)も上がる。
そして何よりも、市場のシェアを激しく奪い合う消耗戦になると、リソースの多い大企業が圧倒的に有利になり、スタートアップに勝ち目はない。
だからこそ、あなたがそのアイデアを話したときに、相手がリアクションやコメントに困って戸惑うような、しかも、世の中では未解決のままである深刻な課題にフォーカスすることこそが、スタートアップの生命線なのだ。
スタートアップが持つべきアイデア
「長持ちするモバイルバッテリーを開発することは、誰からみても優れたアイデアである。従って優れたスタートアップのアイデアではない」
大企業は、「既存のユーザーの既存の課題」に対してソリューションを提供するので、必然的に「長持ちするモバイルバッテリー」をまず考える。
こうした既存商品の改善は大企業に任せておけばいい。
スタートアップは「電池不要のスマホ」といった、既存のフォームファクターを前提から覆すアイデアを持つべきだ。
アンセクシーなアイデアはアイデアを検証し、具現化するのはイバラの道になる。
課題仮説の検証からスタートする必要があり、前例のない解決策を考える必要がある。
しかし、スタートアップというビークルに乗り込んで挑む価値は、未知の課題を乗り越えることにあるはずだ。
YCのサム・アルトマン氏はスタンフォード大学の講演で「スタートアップではハードなことをするほうが実は近道である。簡単な道を選ぶことは結果として遠回りになる」
と語っている。
楽して成功を収めたスタートアップなど、この世に存在しない。
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