回収されたCO2の有効利用に関する専門レポート
概要
気候変動問題の深刻化に伴い、大気中に排出される二酸化炭素(CO2)の削減が喫緊の課題となっています。その解決策の一つとして、産業活動などから回収されたCO2を有効に利用する技術、すなわちCO2回収・利用(CCU)が注目を集めています。本レポートでは、回収されたCO2の利用に関する最新の技術動向、具体的な産業分野での応用例、CO2を別の物質に変換する技術の詳細、経済性、環境影響、国内外の取り組み、そしてCO2貯留技術との比較検討について、専門的な視点から詳細に分析します。
1. はじめに:二酸化炭素有効利用の重要性の高まり
地球温暖化対策としてのカーボンニュートラル実現に向けた国際的な取り組みが進む中、CO2排出量削減技術の重要性が増しています
2. 二酸化炭素有効利用(CCU)技術の現状
近年、CO2有効利用技術に関する研究開発が世界的に活発化しています
CO2を単なる廃棄物として捉えるのではなく、貴重な資源として再利用するという認識が広まっていることが、CCUへの注目が高まっている背景にあります。この変化は、排出量削減だけでなく、経済的な機会創出と資源効率の向上を目指す循環型経済の原則とも合致しています。多くの研究プロジェクトや企業がCCU技術の開発に取り組んでおり、その多様な応用分野が、持続可能な社会の実現に向けた有望な戦略であることを示唆しています。
3. 回収されたCO2の具体的な産業分野
回収されたCO2は、様々な産業分野でその有効性が認められ、具体的な利用が進んでいます。
3.1 化学製品
CO2は、ポリカーボネートやポリウレタンといったポリマーの製造に利用されています
3.2 建材
CO2は、コンクリートの製造過程で利用され、強度向上やセメント使用量の削減に貢献しています
3.3 燃料
回収されたCO2は、メタノール、エタノール、合成メタンといったカーボンニュートラル燃料の製造に利用できます
3.4 農業
CO2は、植物の光合成を促進するために温室栽培などで利用されています
3.5 その他
その他にも、回収されたCO2は、枯渇した油田に圧入することで原油の回収率を向上させる石油増進回収(EOR)や、冷却材としてドライアイスの製造など、様々な用途で利用されています
回収されたCO2の多様な産業応用は、経済の様々なセクターに貢献する可能性を示しており、新たな市場と収益源を生み出しながら、気候変動への取り組みを推進する上で有望な戦略と言えます。この幅広い応用可能性が、CCUを持続可能な未来に向けた重要な技術として位置づけています。
4. CO2を別の物質に変換する技術
回収されたCO2をより価値の高い物質に変換するための技術は、多岐にわたります。
4.1 メタノール合成
CO2と水素を反応させてメタノールを合成する技術は、確立されたプロセスであり、近年、カーボンニュートラルな燃料としての利用が注目されています
4.2 プラスチック・ポリマー製造
CO2を原料として、ポリカーボネート、ポリウレタン、生分解性プラスチックなどの様々なプラスチックやポリマーを製造する技術が開発されています
4.3 コンクリートへの利用
CO2をコンクリート製造に利用する技術は、CO2の固定化とコンクリートの強度向上という二つの利点があります
4.4 合成燃料製造
CO2と水素を反応させて、ガソリンやジェット燃料の代替となる合成燃料(e-fuel)や合成メタンなどを製造する技術も注目されています
4.5 炭素鉱物化
CO2を岩石中の鉱物と反応させて、安定な炭酸塩鉱物を生成し、CO2を地中に固定化する技術です
4.6 CO2電解還元
電気化学的な反応を利用してCO2を還元し、一酸化炭素、メタン、エチレンなどの有用な物質に変換する技術です
4.7 人工光合成
植物の光合成を模倣し、太陽光エネルギーを利用してCO2と水から有機物を合成する技術です
これらのCO2変換技術は、それぞれ異なる特徴と応用分野を持っています。技術開発の進展により、より効率的で経済的なCO2有効利用が実現することが期待されます。
5. CO2有効利用に関する技術の経済性
CO2有効利用技術の経済性は、その普及を左右する重要な要素です。様々な利用経路におけるコスト評価、市場規模、そして将来的な可能性について考察します。
5.1 各利用経路のコスト評価
メタノール合成のコストは、原料となる水素のコストに大きく左右されます
5.2 市場規模と将来的な可能性
カーボンリサイクル市場は、今後大幅な成長が予測されています
CO2有効利用技術は、初期投資や運用コストが高いという課題を抱えているものの、技術開発の進展や市場の拡大に伴い、その経済性は向上していくと予想されます。政府の支援策や企業の積極的な取り組みが、コスト削減と市場創出を加速させる鍵となるでしょう。
6. CO2有効利用が環境に与える影響
CO2有効利用技術が環境に与える影響は、炭素固定量、エネルギー消費量、その他の環境負荷といった側面から評価する必要があります。
6.1 炭素固定量
CO2有効利用技術は、大気中に排出されるCO2を削減し、様々な形で固定化する効果が期待されます
6.2 エネルギー消費量
CO2の回収、変換、利用といった各プロセスにはエネルギーが必要であり、そのエネルギー源によっては、CO2排出量を増加させる可能性があります
6.3 その他の環境負荷
CO2有効利用技術の導入は、土地利用、水資源、生態系など、他の環境要素にも影響を与える可能性があります
CO2有効利用技術は、地球温暖化対策の重要な柱の一つとなり得る一方で、その環境負荷を低減するためには、技術開発とエネルギー源の脱炭素化が不可欠です。ライフサイクル全体での環境影響評価に基づいた技術選択と導入が求められます。
7. 日本国内および海外におけるCO2有効利用に関する取り組み
CO2有効利用に関する研究プロジェクト、企業、政策は、日本国内および海外で活発に進められています。
7.1 日本国内の取り組み
日本では、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)を中心に、CO2分離回収技術や有効利用技術に関する様々な研究開発プロジェクトが実施されています
7.2 海外の取り組み
海外では、米国や欧州を中心に、大規模なCCUSプロジェクトが展開されています
これらの国内外の取り組みは、CO2有効利用技術が気候変動対策の重要な要素として認識され、その研究開発と実用化が着実に進んでいることを示しています。
8. 新潟県または長岡市におけるCO2の回収・利用に関する取り組み
新潟県および長岡市においても、CO2の回収・利用に関する積極的な取り組みが見られます。
新潟県は、CCUS基盤整備によりエネルギー・産業の脱炭素化を加速させることを目指しており、カーボンリサイクル素材など新たな産業開発を誘発する構想を策定しています
長岡市は、2050年カーボンニュートラル実現を目指し、「長岡市カーボンニュートラルチャレンジ戦略」を策定しており、その中でCCUSの推進も掲げられています
これらの取り組みは、新潟県および長岡市が、地域特性を活かしながらCO2の回収・利用に関する技術開発と実証に積極的に取り組んでいることを示しています。
9. 回収されたCO2の貯留技術と有効利用技術の比較検討
回収されたCO2の処理方法として、貯留(CCS)と有効利用(CCU)の二つの主要なアプローチがあります。それぞれの利点と課題を整理し、比較検討します。
9.1 CO2貯留技術(CCS)
- 利点: 大量のCO2を削減できる可能性があり、特に発電所や工場などの大規模排出源からのCO2削減に有効です
。様々な産業分野に適用可能です2 。2 - 課題: 初期投資や運用コストが高く
、適切な貯留場所の確保が必要であり8 、CO2漏洩や地震誘発のリスクが懸念されます2 。法規制の整備も課題の一つです75 。CO2貯留自体は経済的な価値を生み出しません。14
9.2 CO2有効利用技術(CCU)
- 利点: 燃料、化学品、建材などの価値ある製品を生産することで、経済的な価値を生み出す可能性があります
。CO2を資源として再利用する循環型経済に貢献します5 。化石燃料への依存度を低減できます6 。14 - 課題: 多くの技術がまだ開発段階であり、コスト競争力に課題があります
。エネルギー集約的なプロセスが多く、再生可能エネルギーを利用しない場合は追加の排出につながる可能性があります1 。一部のCO2由来製品の市場規模はまだ限定的です。17
9.3 異なるシナリオへの適合性
CO2貯留は、大規模なCO2排出源からの排出量削減に特に適しています。一方、CO2有効利用は、生産された製品に市場需要があり、プロセス全体で温室効果ガス排出量の正味削減が達成できる場合に適しています。CCUSのように、貯留と利用を組み合わせることで、それぞれの利点を活かすアプローチも考えられます
最終的にどちらのアプローチを選択するかは、利用可能な貯留場所、有効利用技術の経済性、排出削減目標、地域社会の受容性など、様々な要因によって決定されることになります。
10. 結論:効果的なCO2有効利用の可能性と課題
本レポートの分析から、CO2有効利用技術は、気候変動の緩和と循環型経済の促進に貢献する大きな可能性を秘めていることが明らかになりました。化学製品、建材、燃料、農業など、多岐にわたる産業分野での応用例が存在し、様々な技術が開発・実証段階にあります。しかし、広範な普及には、コスト削減、エネルギー効率の向上、技術的な成熟度を高める必要があります。
11. 今後の研究開発および実装に向けた提言
今後の研究開発においては、触媒効率の向上、変換プロセスのエネルギー消費量削減、費用対効果の高いCO2回収技術の開発などが重要となります。政策面では、炭素価格メカニズム、税額控除、研究開発への資金提供など、CCU技術の導入を促進する措置が推奨されます。産業界、政府、学術界の連携を強化し、効果的なCO2有効利用ソリューションの開発と展開を加速することが不可欠です。
付録:主要なCO2有効利用技術の比較
技術 | 主な製品 | 技術概要 | 利点 | 欠点 | 現在の状況 |
メタノール合成 | メタノール(燃料、化学原料) | CO2と水素を触媒反応 | 燃料および化学原料としての利用、カーボンニュートラルな可能性 | 水素製造にエネルギーが必要、触媒効率 | 研究、パイロット、商業 |
プラスチック・ポリマー製造 | ポリカーボネート、ポリウレタン、バイオプラスチック | 化学反応、触媒、生物学的利用 | 化石燃料依存度の低減、生分解性プラスチックの可能性 | エネルギー集約的、コスト競争力 | 研究、パイロット |
コンクリートへの利用 | 強度向上コンクリート、CO2固定化コンクリート | CO2をコンクリート混合時に注入、セメントの炭酸化 | 強度向上、CO2固定化、セメント使用量削減 | コスト、一部方法の耐久性 | パイロット、商業 |
合成燃料製造 | e-fuel、合成メタン | フィッシャー・トロプシュ合成、メタネーション | 既存インフラ利用可能、高エネルギー密度(一部) | 製造コスト高、水素製造にエネルギーが必要 | 研究、パイロット |
炭素鉱物化 | 炭酸塩鉱物(貯留) | CO2と鉱物の反応 | 長期的なCO2貯留、漏洩リスク低い(一部) | 反応速度、鉱物資源 | 研究、パイロット |
CO2電解還元 | CO、メタン、エチレンなど | 電気化学的CO2還元 | 再生可能エネルギー利用可能 | 電極・触媒開発、エネルギー効率 | 研究 |
人工光合成 | ギ酸、オレフィンなど | 太陽光エネルギー利用、触媒反応 | 持続可能な化学品製造の可能性 | 太陽光変換効率、コスト | 研究 |
技術 | 推定生産コスト | 主要なコスト要因 | 市場規模予測 |
メタノール合成 | 74.7-85.2 ¥/kg (バイオマスガス化、貯留CO2利用) |
水素コスト |
拡大予測 |
プラスチック製造 | 同等以下を目指す (既製品比) |
原料、エネルギー | 拡大予測 |
コンクリート利用 | 既存製品と同等以下を目指す |
セメント、CO2回収 | 大幅増 |
合成燃料製造 | 高い (化石燃料比) |
水素コスト、CO2回収 | 大幅増 |
CO2電解還元 | 現状高コスト |
電力コスト、装置コスト | 成長予測 |
人工光合成 | 高い |
光触媒、設備コスト | 長期的に期待 |
炭素鉱物化 | 鉱物資源、CO2回収 | ポテンシャル大 |
技術 | 推定炭素固定効率 | エネルギー消費量 | その他の環境影響 |
メタノール合成 | 約1.4トンCO2/トンメタノール |
水素製造に依存 | |
プラスチック製造 | 削減効果期待 |
プロセスに依存 | |
コンクリート利用 | 5-10%強度向上、セメント削減 |
混合プロセスに依存 | |
合成燃料製造 | カーボンニュートラル |
水素製造に依存 | |
炭素鉱物化 | 1.7トン鉱物化あたり1トンCO2除去 |
圧入に依存 | 地震誘発の可能性 |
CO2電解還元 | 電力消費量大 | ||
人工光合成 | 4.6%太陽光変換効率 |
太陽光依存 |
回収されたCO2の有効利用に関する研究動向
1. 序論
大気中の二酸化炭素(CO2)濃度の上昇とその地球温暖化への影響は、世界的に深刻な問題として認識されており、温室効果ガス排出量の削減は喫緊の課題となっています。この課題に対処するため、CO2の排出源からの回収と貯留(CCS)に加え、回収したCO2を資源として有効活用する技術(CCU)が注目を集めています。CCUは、排出されたCO2を単に貯蔵するだけでなく、有用な製品に変換することで、排出量削減に貢献すると同時に、新たな経済的価値を生み出す可能性を秘めています。本報告書では、回収されたCO2の有効利用に関する最新の研究動向について、学術論文や研究報告書に基づき、その技術、応用分野、研究の進展状況、そして今後の展望を包括的に概説します。
2. CO2回収技術の概要と有効利用への関連性
CO2の有効利用を実現するためには、まずCO2を効率的に回収する必要があります。回収されたCO2の純度や量は、その後の利用方法の選択と経済性に大きく影響するため、適切な回収技術の選択が重要となります。現在、様々なCO2回収技術が研究開発されており、その特性はCO2の発生源や濃度によって異なります。
化学吸収法は、化学溶媒を用いてCO2を吸収する技術であり、三菱重工業(MHI)のKM-CDRプロセスは、KS-1吸収液を用いることで高純度(99.9 vol.%)のCO2を回収できることが示されています
膜分離法は、半透膜を用いてガス混合物からCO2を分離する技術であり、高砂熱学イノベーションセンターの研究では、多段の膜分離により空気中のCO2を40%以上に濃縮できることが明らかにされています
固体吸収材を用いたCO2回収技術も研究されており、川崎重工業などがその開発に取り組んでいます
近年注目されている技術の一つに、大気中から直接CO2を回収するDAC(Direct Air Capture)があります。ある研究事例では、CO2回収に加えて大気中の水を回収することで、エネルギー消費量を大幅に削減できる可能性が示唆されています
さらに、CO2の分離・転換プロセスの統合を目的とした、水素(H2)ストリッピングによる省エネルギーCO2回収技術も研究されています
表1: 主要なCO2回収技術の比較と有効利用への関連性
技術 | 主なCO2源 | 達成可能な純度 | エネルギー消費量 | 主な利点 | 主な欠点 | 有効利用への関連性 |
化学吸収法 | 工業排ガス | 高 | 高 | 成熟した技術、高純度CO2回収 | エネルギー消費量が大きい | 化学原料など高純度CO2を必要とする用途に適している |
膜分離法 | 工業排ガス、空気 | 可変 | 中 | 比較的エネルギー効率が高い可能性 | CO2源によって純度が変動する | 様々な用途に適応可能、特に低濃度CO2源からの回収に有望 |
固体吸収材法 | 工業排ガス | 可変 | 中 | 安定性、再生エネルギーが低い可能性 | 吸収材の種類による | 様々な用途に適応可能 |
直接空気回収(DAC) | 空気 | 低 | 非常に高い | 既存の排出源に依存しない、過去の排出量削減に貢献 | エネルギー消費量が非常に高い、コストが高い | 大気中のCO2を原料とする用途、貯留と組み合わせた利用 |
H2ガスストリッピング | 転換プロセスと統合 | 中 | 低 | 分離と転換の統合による省エネルギー | 特定の用途に特化 | 転換プロセスと連携した効率的な利用に有望 |
3. 直接利用の応用分野
回収されたCO2は、化学的な変換を伴わずに、その物理的特性を利用して様々な分野で直接的に活用されています。これらの直接利用は、比較的成熟した技術が多く、すでに商業的に展開されている例も存在します。
産業分野においては、CO2は溶接時のシールドガスなどとして利用されています
農業分野では、ハウス栽培においてCO2を施用することで、植物の光合成を促進し、収穫量を増加させる効果が知られています
石油産業においては、枯渇した油田にCO2を圧入することで、残存する原油の回収率を向上させるEOR(Enhanced Oil Recovery:原油増進回収法)技術が実用化されています
4. 間接利用:燃料および化学品への転換
回収されたCO2を、より価値の高い燃料や化学品に変換する間接利用は、排出量削減への貢献度が高く、活発に研究開発が進められています。
燃料への転換においては、CO2と水素を反応させてメタンを生成するメタネーション技術が注目されています
メタノールも、CO2と水素から合成される重要な化学品であり、燃料としても利用可能です
近年、持続可能な航空燃料(SAF)の製造においても、CO2の利用が検討されています
さらに、CO2を還元して合成ガス(COと水素の混合ガス)を生成し、それを経由して軽油、アルコール、オレフィンなどの様々な燃料や化学品を合成する技術も研究されています
化学品への転換においては、ポリマーの原料としてのCO2利用が注目されています
5. 間接利用:材料および農業への応用
回収されたCO2は、建設材料や農業分野においても有効に活用するための研究開発が進められています。
建設材料においては、コンクリートへのCO2利用が特に注目されています
バイオマス由来製品への応用も研究されています。微細藻類などのバイオマスにCO2を吸収させ、増殖したバイオマスを燃料や化学品に変換する技術が開発されています
6. 注目される技術と新たな展開
近年、CO2有効利用の研究開発において、特に注目されている技術や新たな展開が見られます。
炭素鉱物化(Carbon Mineralization)は、回収されたCO2を炭酸塩などの鉱物に変換し、長期的に安定な形で固定化する技術であり、建設材料への応用を中心に研究が進んでいます
Power-to-X(PtX)技術は、再生可能エネルギー由来の電力を用いて水を電気分解し、得られた水素と回収されたCO2を反応させて、合成燃料や化学品を製造する技術です
CO2の回収と利用を一体化する技術開発も進んでいます
直接空気回収(DAC)技術の進展も注目されています
バイオ統合システム(Bio-integrated Systems)は、微生物や藻類などの生物機能を利用してCO2を固定化し、有用な物質を生産する技術です
7. CO2有効利用の推進における課題と機会
CO2有効利用技術の社会実装と普及には、いくつかの課題が存在します。その一つが、コストの問題です
スケールアップとインフラ整備も重要な課題です
市場の創出と政策支援も不可欠です
ライフサイクルアセスメント(LCA)による環境影響評価も重要です
一方で、CO2有効利用は、新たな産業の創出や雇用機会の創出といった経済的な機会をもたらす可能性を秘めています
8. 今後の研究の方向性
今後のCO2有効利用に関する研究は、エネルギー効率の向上とコスト削減、革新的な利用方法の探求、CCUシステムの統合と最適化、DAC技術の高度化、そして環境影響評価の深化といった方向に向かうと考えられます。
エネルギー効率とコスト削減のためには、高性能な吸収材、分離膜、触媒などの開発や、反応プロセスの最適化が重要となります。また、AIや機械学習を活用したプロセス制御や触媒設計も有望な研究分野です。
新たな利用方法の探求においては、高付加価値な化学品や材料への変換、ナノテクノロジーなどの新興分野におけるCO2の応用などが考えられます。
CCUシステム全体の効率化のためには、CO2回収と利用技術の連携を強化し、最適な組み合わせや統合化されたシステムの開発が求められます。バイオマスとの連携によるバイオ精製(バイオリファイナリー)におけるCO2の利用も注目されるでしょう。
DAC技術については、より効率的で低コストな吸着材やプロセスの開発が引き続き重要な課題です。また、回収したCO2の有効な利用方法との組み合わせについても、さらなる研究が必要です。
CO2有効利用技術の環境負荷を正確に評価するための、より高度なLCA手法の開発や、CO2由来製品のカーボンフットプリント算定方法の標準化も重要な研究課題となるでしょう。
9. 結論
回収されたCO2の有効利用に関する研究は、地球温暖化対策と経済成長の両立を目指し、多岐にわたる分野で活発に進められています。直接利用においては、既存の産業や農業における応用が拡大しており、間接利用においては、燃料、化学品、建設材料など、様々な製品への変換技術が開発されています。近年では、炭素鉱物化、PtX技術、回収と利用の一体化、DAC技術の高度化、バイオ統合システムなどが特に注目されており、今後の技術革新と社会実装が期待されます。
しかしながら、コスト、エネルギー効率、スケールアップ、市場創出といった課題も依然として存在します。これらの課題を克服し、CO2有効利用技術を広く普及させるためには、継続的な研究開発、政策支援、そして社会全体の理解と協力が不可欠です。CO2有効利用は、持続可能な社会の実現に向けた重要な戦略の一つとして、そのさらなる発展が期待されます。
回収された二酸化炭素(CO2)の有効利用方法に関する調査報告
二酸化炭素(CO2)は温室効果ガスとして気候変動の主要因となっていますが、適切に回収されれば資源として様々な分野で活用できる可能性を秘めています。本報告書では、産業や農業分野におけるCO2の有効利用方法について、最新の技術動向や実例を交えながら詳細に解説します。
CO2回収・利用技術の概要と分類
CCS・CCU・CCUSの基本概念
CO2の回収・利用技術は、主に以下の3つの概念に分類されています。
CCS(Carbon dioxide Capture and Storage) は「二酸化炭素回収・貯留」を意味し、発電所や工場などから排出されるCO2を分離・回収した後、地中深くに貯留する技術です2。これにより大気中へのCO2排出を抑制することが可能となります。
CCU(Carbon dioxide Capture, Utilization) は「二酸化炭素回収・利用」を意味し、回収したCO2を燃料やプラスチックなどの有用な物質に変換したり、油田の油層に圧入して原油回収を促進するなど、資源として活用する技術です2。
CCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage) は「二酸化炭素回収・利用・貯留」という意味で、CCSとCCUを組み合わせた概念です。回収したCO2を貯留するだけでなく、様々な形で利用することを目指しています2。
これらの技術は、2060年までに削減予定のCO2の約14%を担うことが期待されており、カーボンニュートラル実現に向けた重要な技術として国内外で研究開発が進められています2。
産業分野におけるCO2の有効利用
メタネーション技術によるカーボンニュートラル燃料の生成
メタネーション技術は、回収したCO2の有効利用法として特に注目されている技術です。この技術は、水素(H2)と二酸化炭素(CO2)を反応させてメタン(CH4)を合成するもので、生成されたメタンは「カーボンニュートラルメタン」と呼ばれます1。
カーボンニュートラルメタンは、燃焼時に排出されるCO2が元々回収したCO2と相殺されるため、CO2排出量が実質ゼロとみなすことができます。このため、脱炭素社会に向けた燃料として大きな可能性を秘めています1。
エア・ウォーター社では、工場などから発生する燃焼排ガス(CO2濃度約10%)に対応可能なCO2回収技術を開発し、カーボンニュートラルメタンの製造に貢献しています1。この技術により、通常は利用が難しい低濃度CO2からも効率的にメタンを合成することが可能になります。
ドライアイス製造と精密洗浄技術への応用
回収したCO2は、ドライアイス製造にも活用できます。エア・ウォーター社が開発した「ReCO2 STATION」は、工場の燃焼排ガスからCO2を回収するだけでなく、回収したCO2を原料としてドライアイスを製造する機能も搭載しています1。
さらに、液化炭酸ガスからドライアイス微粒子を生成して精密洗浄に利用する「QuickSnow」という装置も開発されています1。この装置は、ドライアイス粒子を対象物に高速で衝突させ、その後粒子が800倍まで気化膨張する作用によって、ミクロン単位のチリやホコリ、有機物を効果的に除去・洗浄することができます1。
この技術の特徴は、水を使わないドライプロセスであることと、被洗浄物へのダメージが小さいことです。これにより、従来の洗浄方法では難しかった精密機器や特殊素材の洗浄が可能になります1。
農業分野におけるCO2の有効活用
トリジェネレーションによる植物育成への応用
農業分野では、CO2が植物の光合成を促進する効果を利用した活用法が実用化されています。特に注目されるのが「トリジェネレーション」と呼ばれる技術です。
長野県安曇野市の安曇野バイオマスエネルギーセンターでは、木質バイオマスを燃料とした発電で電気と熱を供給する従来の「コジェネレーション」に加え、発電時に生じる排気ガスからCO2を回収してトマトの光合成促進に利用する「トリジェネレーション事業」を展開しています1。
この事業では、発電時に生じる排気ガスからNOxやCO、SOxなどの有害物質を除去する排ガス浄化システムを開発し、浄化されたCO2をトマトハウスに供給しています1。これにより、トマトの生育が促進されるだけでなく、農業コストとCO2排出量の削減も実現しています。
バイオマスガス化発電による熱・電気・CO2を利用するこのトリジェネレーションは国内初の取り組みで、未利用木材を活用することで地域の林業復興にも貢献しています1。
CO2回収・利用の将来展望と課題
地産地消型CO2利用モデルの構築
CO2の回収・利用技術の将来展望として、エア・ウォーター社では地産地消型のCO2回収・利用モデルの構築を目指しています1。これは、CO2回収技術と産業ガスメーカーの炭酸ガス供給ネットワークを活用して、地域内でCO2を回収・利用する循環システムを実現するものです。
また、次世代の「ReCO2 STATION」に向けた革新的な技術開発も進められており、日本政府が取り組む「2050年カーボンニュートラル」実現に向けたグリーンイノベーション基金事業にも参画しています1。
CO2回収・利用技術の社会的意義
CO2回収・利用技術の導入は、環境面だけでなく、エネルギー安全保障の観点からも重要です。例えば、環境省の試算によれば、約27万世帯分の電力を供給できる石炭火力発電所にCCSを導入すれば、年間約340万トンのCO2排出を防ぐことができるとされています2。
また、日本は電力の7割を火力発電で賄っており、化石燃料への依存度が高いという現状があります。エネルギー変換効率が高く安定した発電が可能な火力発電の利点を活かしつつ、CO2排出量を削減するためにも、こうした技術の開発・導入が急務となっています2。
結論
回収されたCO2の有効利用は、カーボンニュートラル社会の実現に向けた重要な取り組みです。メタネーション技術によるカーボンニュートラル燃料の生成、ドライアイス製造と精密洗浄技術への応用、農業分野での植物育成促進など、様々な形でCO2を資源として活用する技術が開発・実用化されています。
これらの技術は、CO2排出量の削減だけでなく、新たな産業の創出や既存産業の持続可能性向上にも貢献する可能性を秘めています。今後も技術開発と社会実装が進み、CO2を単なる廃棄物ではなく貴重な資源として扱う社会システムの構築が期待されます。
国内外での研究開発や実証実験の進展により、CO2回収・利用技術はさらに効率化・低コスト化が進むと予想されます。政府や企業の継続的な支援のもと、これらの技術が広く普及することで、脱炭素社会への移行が加速されるでしょう。
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- https://shizenenergy.net/decarbonization_support/column_seminar/carbon_recycling/
- https://research-er.jp/categories/6689
- https://sustech-inc.co.jp/carbonix/media/carbon-recycling/
- https://www.jst.go.jp/crds/report/CRDS-FY2019-RR-05.html
- https://www.co2.co.jp
- https://news.build-app.jp/article/14674/
- https://www.cmcbooks.co.jp/products/detail.php?product_id=7932
- https://www.gzr.aist.go.jp/teams/smart-co2-utilization-research-team/
- https://accel.e-dash.io/article_0032/
- https://asuene.com/media/226/
- https://www.shimz.co.jp/company/about/news-release/2024/2024044.html
- https://www.terrascope.com/ja/blog/major-international-companies-casestudies
- https://asuene.com/media/226
- https://enetech.co.jp/guide/co2-reduction-and-decarbonization-enterprise-methods/
- https://www.env.go.jp/earth/brochureJ/ccus_brochure_0212_1_J.pdf
- https://www.terrascope.com/ja/blog/co2-reduction-case-study
- https://www.jccca.org/global-warming/knowleadge05
- https://www.env.go.jp/content/900444172.pdf
- https://www.ene100.jp/column/1574
- https://shizen-hatch.net/2022/06/30/carbon-dioxide-ccu/
- https://www.jccca.org/download/65455
- https://www.energia.co.jp/press/2020/12633.html
Perplexity の Eliot より: pplx.ai/share
現時点では、家庭用暖房からのCO2を直接活用することは難しいですが、CO2排出量削減の観点から、家庭用暖房の将来展望について以下のポイントが挙げられます:
1. ヒートポンプ技術の普及
ヒートポンプ式エアコンへの移行が進むことで、家庭のCO2排出量を大幅に削減できる可能性があります。企業や家庭のCO2排出量を半減させる可能性も指摘されています[5]。
2. 電化の推進
暖房機器の電化を進めることで、2019年度比で約51%のCO2排出量削減が見込まれています[1]。特に、化石燃料を使用する暖房機器からヒートポンプエアコンへの置き換えが効果的です。
3. 高効率機器への更新
最新の省エネ性能を持つエアコンへの更新だけでも、CO2排出量の削減に貢献します[3]。
4. 複合的アプローチ
灯油暖房やガス暖房をエアコンに代替し、さらにエアコンを最新モデルに更新することで、国全体で約47.7%のCO2排出量削減が可能とされています[3]。
5. 地域特性への配慮
寒冷地では、特に灯油暖房からエアコンへの代替による削減効果が大きいことが示されています[3]。
6. 省エネバリアの克服
エアコン利用への変更により、家庭部門の暖冷房からのCO2排出量を約6割削減できる可能性がありますが、様々な障壁により実現が妨げられています。正確で分かりやすい情報提供などが求められます[4]。
これらの取り組みにより、家庭用暖房からのCO2排出量を大幅に削減することが期待されています。直接的なCO2活用ではありませんが、排出量削減を通じて環境負荷の低減に貢献する方向性が示されています。
Citations:
[1] https://www.jema-net.or.jp/Japanese/info/download/06.pdf
[2] https://eneken.ieej.or.jp/data/11671.pdf
[3] https://www.jser.gr.jp/wp-content/uploads/2023/12/%E7%AC%AC42%E5%9B%9E%E7%A0%94%E7%A9%B6%E7%99%BA%E8%A1%A8%E4%BC%9A_%E5%AE%B6%E5%BA%ADCO2%E4%BC%81%E7%94%BB%E3%82%BB%E3%83%83%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3%E7%99%BA%E8%A1%A8%E8%AB%96%E6%96%87.pdf
[4] https://criepi.denken.or.jp/intro/nenpo/2009/09bunya12.pdf
[5] https://weathernews.jp/s/topics/202501/060215/
[6] https://www.jccca.org/_bosys/wp-content/uploads/2021/01/20111006.pdf
[7] https://www.hptcj.or.jp/Portals/0/data0/press_topics/R4TyousaHoukoku/R4DenkaFukyuMitoshi.pdf
[8] https://www.env.go.jp/content/000226334.pdf
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Perplexity の Eliot より: pplx.ai/share