保険にITを融合させた「Instech(インステック)」という言葉が使われるようになりました。
保険の[Insurance]と技術の「technology」を組み合わせた造語です。

先頭を走る企業が中国にあります。
中国平安保険は1988年に深圳で設立された保険会社です。
創業時から新しいITを積極的に取り入れて急成長を果たし、中国四大保険会社の一つに数えられるほどになりました。
クラウドサービスやAIなどを積極的に取り入れ、保険審査の自動化で効率化を果たしています。
グループとして証券業やヘルスケアサービスにも進出し、時価総額はトヨタ自動車と同規模の20兆円近くに達しています。

最近は米国の自動車取引サイトを買収し、自動車ローンと自動車保険のビジネスを拡大しています。
日本では、保険や銀行などの金融ビジネスに、異業種やスタートアップが技術を駆使して「フィンテック」企業として殴り込みをかけています。
中国平安保険の場合、逆に金融業界から他のビジネスを統合しにいっているわけです。

ほかにも米アマゾン・ドット・コムが金融大手のJPモルガン・チェース、著名投資家ウォーレン・バフェット氏率いる投資会社バークシャー・ハザウェイと手を組み、新しい保険サービスを開発しています。
米アップルは医療保険大手の米エトナと2019年4月に「アテイン」というアプリで、スマートウォッチ「アップルウォッチ」から取得する健康情報に基づいて、運動や睡眠など健康増進につながる行動に対してポイントを付与するサービスを始めました。
保険の仕組みを考えながら、テクノロジーが保険ビジネスにもたらす意味を解説しましょう。

保険の基本は互助

そもそも保険とは、なにか問題が発生したときの互助手段です。
例えば参加者が100人いるとしたら、1人が病気になったときに元気な99人が補助を出すというのが基本的な考え方です。

保険会社はそこに手数料を乗せて、100人に保険料を請求します。
保険料がどのように算出されているかをご存知でしょうか。

これまでは過去の病気や事故の統計に基づいて年齢に応じて起こる確率を計算しています。
つまり個人の特性や将来の行動までは考慮に入っていませんでした。
保険会社は損をしないように、手数料はある程度保守的に設定されています。

例えば生命保険が作成している「生命表」は、年齢に応じて死亡する人の確立を過去のデータに基づいて算出しています。
各個人の特徴はあまり考慮されていません。
自動車保険でもよく「35歳以上」で区切っていたりするのも同様です。

しかしアップルウォッチを使えば、インターネットを通じて健康情報をリアルタイムに取得できるわけです。
そのデータを利用すれば、個人個人の健康状態に基づいて保険料を算出できます。
結果として保守的な保険料より安くできる余地があるので、アテインではそれをポイントとして還元しているわけです。

アップルウォッチが送る情報は利用者が介在しないので、保険会社をごまかすことができません。
仮にごまかせるような情報を使うとしたら、ごまかしている可能性を考慮して還元するポイントを設計することになります。
逆に保険会社が不健康な利用者を検出するのに使うのは、保険の目的からするとしてはいけない行為です。

「クリーンスキミング」といって、健康な人ばかりを集めれば保険料を安くできるのは当然だからです。

保険の目的は病気になるリスクを分散し相互扶助することにあります。
法律など経済合理性とは別の基準でこうした規制をしています。

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