過去数年間に語られてきた数多くの神話のうち、特に魅惑的(そして危険)だったのは、世界的にリスクが低下しているというものだ。
具体的には以下のような話である。

  • 中央銀行による功名な経済運営で、景気変動リスクが小さくなった。
  • グローバル化で、リスクがある地域に集中せずに、世界全体に分散するようになった。
  • 証券化とシンゲージケート化で、リスクが一握りの市場参加者に集中せずに多くの市場参加者に分散するようになった。
  • リスクは、それぞれのレベルに対応する負担能力を持った投資家へと「切り分けられた」
  • 金利水準と融資条件が以前よりも借り手にとってかなり都合の良いものとなったため、レバレッジを利かせることによるリスクが低下した
  • 買収対象の企業のファンダメンタルズが以前よりも良好であるため、レバレッジド・バイアウト(LBO、対象企業の資産などを担保に借り入れた資金で行う企業買収)の安全性が高まった
  • リスクは、ロングショート戦略(買い持ちと売り持ちを組み合わせる戦略)や絶対リターン投資手法、リスク・ヘッジ目的で開発された金融派生商品(デリバティブ)を通じて、ヘッジすることができる。
  • コンピュータ、数学的手法、モデル開発の進化により、金融市場に対する理解が深まり、リスクが低下した

市場に存在するリスクの度合いは、証券や戦略や金融機関ではなく、市場参加者の態度に由来する。
市場の構造にいかなる要素が組み込まれていようとも、投資家が慎重に振舞わない限り、リスクは低くならない。

リスクは排除できない。存在する場所が変わったり、拡散したりするだけだ。
そして、リスクが世界的に低下したように思える事があっても、それは錯覚にすぎない。

 

リスクがなくなったという神話は、特に危険なリスクの根源であり、あらゆるバブルの主因である。
相場の振り子が上昇の極限に達するとき、リスクが低く、渦中の資産への投資が確実に利益を生み出すという思い込みから人々は夢心地になる。
警戒心や懸念や損失への恐れを忘れる一方で、儲ける機会を逸失するリスクばかりを気にするようになるのだ。

 

投資リスクは主として高すぎる価格によって生まれ、高すぎる価格は多くの場合、楽観主義が行き過ぎ、懐疑主義とリスク回避が鳴りをひそめることによって生じる。
そのほかに、安全性が高い資産の期待リターンが低い、リスクの高い資産がこのところ好パフォーマンスを演じている、資金が大量に流入している、融資基準が緩いといった状況も、価格の高騰を後押しする要因となりうる。

これらの要因がどのような影響を及ぼすかを理解することが、投資のカギとなる。

 

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